7月28日
つまんないよね。
真夏の誕生日なんて。
ケーキ。
ああ、ケーキ。
あこがれたけど。
でも別にいいんだって顔してたんだ。
こどもの頃。
こどもだから言える、わがままと
こどもだから言えない、わがままと。
生クリームのバースデーケーキは縁がなかったけどそれでも誕生日はやってきた。
一日じゅう、外にいた。
濃い日陰を追いかけながら、まぶしい外にいた。
あの頃。
そして今年も。
まだシャワーに濡れたままの髪からしずくが落ちる。
背中に重みが近づいて、肩越しに腕が伸びる。
目の端を、小さな赤い色が過ぎた。
「ほら」
低い声が上から響いて。
「イチゴ」
ガラスのボウルに山盛りのイチゴ。その中の一つをつまんで、俺の口元に寄せる。
イチゴはわかってるけど。
「口開けろ」
表面が水を弾いて、赤い色はにじんでいる。
これじゃこども扱いみたいで。
「すっぱいよ」
わざと不満を言うと、また俺の頭の上から低く笑い声がする。
「そうか、もっと食え」
「これがバースデーケーキの代わり?」
背中の重みが少し動いて、両方の肩から伸びる腕がイチゴのボウルを引き寄せた。
イチゴよりも、その腕が。
俺の視線を引き付けるんだ。
「なあ」
自分は一つも食べないで。
「見えるだろ」
嬉しそうな声を出しているのはどうしてだろう。
白い生クリームも、丸いスポンジもない。
だけど、飾られた赤いイチゴが俺には見える。
うん、見えるよ。
「俺ばっかりじゃなくて、食べたら?」
「あとでな」
見えないケーキと
口に出さないハッピーバースデー。
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