1.南葛にて
奈津子さんは干そうとした洗濯物の一つにふと手を止めた。
「あらっ…これって」
見覚えのないサッカーウェア。黒い地で、息子のものよりサイズが大きい。
「翼!」
家の中に声をかける。
「これ、日向くんのでしょ?」
「うん」
夏休みの休日を自宅でのんびり過ごしていた翼はうなづく。
奈津子さんはにっこりした。
「あなたには大きいから母さんがもらって着ようかな」
「だめ〜っ」
冗談でもだめ。
「じゃあどうするの」
「せっかくもらったものだから俺もいろいろ考えてたんだよね」
そう言って翼は母親にある頼みごとをした。
そして夜――。
テレビの前の翼に奈津子さんは台所から呼びかける。
「翼、明日は病院でしょ。もう寝なさい。――あら?」
返事がないので覗いてみれば、翼はいつの間にかぐっすりと寝入っていた。今
日できあがったばかりの日向のユニフォームクッションに顔をうずめてそれはも
う気持ちよさそうに。
「まあ、日向くんの胸ってそんなに眠りやすいのかしら」
中身はパンヤだけど。
奈津子さんはくすくす笑いながらカメラを構えた。
「日向くんにお礼を言わないとね」
数日後、東邦に届いた手紙に同封されていた写真に、日向は沈没した。
「キャプテン、これはどーゆーことです!」
若島津がいくらすごんでも、もちろん日向に非は何もない。
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