| 岬×松山------------------------------------------------
「ちょ、ちょっとかくまってくれ」 廊下の角からいきなり現われた松山が自分の背後に回ったので岬は体を揺すぶられて 「もう〜」 と笑った。 「今度は一体何をやらかしたわけ？」 「やらかしたなんて、人聞き悪いだろ、岬」 抗議しつつもその背中の声は笑い混じりだ。 「いいか？ そのへんに隠れるから、探しに来たらどこか向こうに行ったって答えてくれよ」 「なるほどね」 岬は肩越しに声をかける。 「少しでも君が暇になるのを待ち構えてるヒトタチがいるってわけか」 「そうなんだ。暇な時くらい暇でいたいのによ」 確かに普段は忙しすぎる姿ばかり見せている松山だ。悪いとは思いつつも、その松山に でないと頼めないこともたまりにたまっている。それがつい、こんな追いかけっこにもなると いうわけだった。 「ボクが無条件で協力すると思う？」 「え？」 くるりと向きを変えて松山と正面に向かい合う。その顔が間近に迫るのを見て一瞬驚いた 分だけ松山は対応が遅れた。 「ほ〜ら、つかまえた」 「うわ！」 両腕にぎゅっと抱きしめられて松山はじたばたした。 「こんなことしてたら見つかっちまうだろ！」 「ボクだって君と一緒にいたいんだから。ふだんガマンしてるんだからチャンスは逃さない よ」 「岬…」 ほんの少し腕が緩んで二人は顔と顔を見合わせる。松山の顔がほんのりと赤くなった。 「そ、それは俺だって…そうだけどよ」 「なら決まりだね」 「わわっ…！」 岬は返事を聞くなり松山を引き寄せて情熱的な抱擁に突入する。 その背後からどたどたと駆けて来る足音が近づいた。 「おーい、松山を見なかったか、岬――うおぉっ、と」 松山を追ってやってきた一行は顔を引きつらせて急停止する。 こちらにはまったく反応せずにラブシーンに没頭している姿にはさすがに何も言えるわけ がない。 「ゴメン、お邪魔でした〜」 回れ右をして戻って行くのを背中に確認してから、岬はやっと松山を解放した。 松山はその岬の腕から急いで逃れ、肩で息をしながら赤い顔で睨む。 「おい〜、みんなの前でこんなことして！ かくまってくれてねえだろが！」 「そう？ 君だって気づかなかったと思うけどな」 「そんなわけねえってば」 今度はうつむいてぶつぶつと独り言になる。岬はぽんとその肩に手を置いた。 「からかったんじゃないよ。今度はボクにもゆっくり時間をとってねってこと」 「あ、ああ」 松山はそこで別れて反対方向に走って行った。一度だけ、ちらりと岬を振り返ってから。 「しっかり逃げ切るんだよ！」 岬はにこっと笑ってそれを見送った。 |