こよみ 



ぼくはいつも ほんの少し いそいでいた
彼が
やって来るまでは


ぼくは不運であったかもしれないが決して不幸ではなかった
ぼくにはぼくの暦があり
その時間を呼吸して生きることに
何の疑問も 持っていなかったからだ
それが 他人より 少し いそぐものであったとしても


だが彼は 風をまとって現われた
風でなく 嵐と言うべきだったかもしれない
見慣れた空間についたわずかな傷が ふと
目の前で思いがけず 大きく開き
ぼくは ぼく自身が切り裂かれたようにおびえたものだ


    (なのに彼は 軽々と笑って
    よう、と言っただけだった
    一緒に行こう と
    一緒に と)


あとになってぼくは知った
切り裂かれたのはぼくでなく
ぼくが守ろうとしていたぼくだったことを
幻なのだと 確信していながら
ぼくは守ることしか知らなかった
その確信さえも幻だったのに


   不鮮明な暦の中で
   時間が蓄積されていく
   そして想いも また
   それは 秘密 に似たものだ


ぼくらの物語は そうして始まった



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作者コメント:
詩の形をしていますが、これも四つ子設定です。と言う か、小説で使うためのメモのような覚え書きでした。彼と はもちろん松山のことです。