「日向くん、まさかバテたわけじゃないよね、まさか」
 翼はボールを手で拾い上げて脇に抱え込んだ。ネットフェンスにもたれたまま動こうと しない日向にまずゴールの前から呼びかけ、そしてすぐに駆け寄ってきた。こちらを見よ うともせずに空を見ている日向の前に立ってもう一度声を掛ける。
「バテてねえよ」
 視線だけをこちらに寄越して日向はやっと答えた。
「バテたんじゃなくて、飽きたんだ。おまえときたらキリがねえったら」
「え〜〜っ?」
 何かにつけて勝負、勝負と張り合うのが生きがいになっているこの2人であるが、ヒト としての常識においては日向のほうがほんの数ミリだけ分があった。
「でもさっきのPK勝負、まだ途中だよ。決着つけようってば」
「いやだ」
 チーム単位に換算するならPK合戦はサドンデスに入って既に4順目。35対35で止 まっている。
「キッカー役のほうはいいが、キーパー役に飽きた」
「俺、飽きてないけど」
 実際のところ、2人共にPKは全て決めていた。つまり、キーパー役から言うと全て決 められているわけである。
「決まって当たり前なのがつまらねえんだよ」
「…ん〜、それはそうかもね」
 翼はやっと半分だけ納得して日向の横に並んで腰を下ろした。
 空は青く晴れ渡っているが気温はほどほどで風が心地よい。翼は顔を上げて目を閉じ る。太陽の位置が目を閉じていてもわかった。流れて行く雲が時折その陽射しをさえぎっ ていくのもすべて。翼は無意識ににっこりした。
「…おい」
 しばらくして、当惑したような日向の声が隣から聞こえた。
「昼寝なら部屋に帰ってやれよ。ぼちぼち冷えてくるぞ」
「大丈夫」
 翼は片目だけ開いて隣の日向を見上げた。
「日向くんあったかいから」
 体を少しずらして角度を大きくしてから日向の肩にことんと体を預ける。
「おまえな…」
「あれっ?」
 しばらくそのままでいた翼がいきなりつぶやいたので日向が怪訝な顔を向けた。
「どうした」
「三杉くんのこと、捜してたでしょ、岬くん」
「ああ」
 それがどうしたという顔をした日向に翼が笑顔を見せる。
「簡単だったんだ、こうすれば!」
 そう言って翼は自分からぎゅうう…と日向にしがみつく。
「そしたら三杉くん、すぐに飛んできたのに。あ、岬くんも」
「…来ねえぞ?」
 日向は面白そうに翼を覗き込む。
 翼はしばらくそのまま動かずに気配を探ってから顔を上げた。
「なら、岬くんもう見つけたんじゃない?」
「そいつは助かったな」
「うん」
 翼は嬉しそうにくすくすと笑い出した。
「じゃあさ、次はこれで対決しようよ。誘惑部門」
 日向がニヤリとする。
「まったく懲りねえなぁ、おまえも」
「だって、日向くんにだけは負けたくないもん」
「俺もだ」
 ――さて、またもやサドンデスか!?