いきなりドアが開いたので、石崎は顔を上げた。
 自分のベッドでうつ伏せに雑誌を開いているところだったが、入ってきたのが誰であれ 驚いた様子はない。そしてもちろん予測もついていた。
「来てないのか…」
 部屋の中にさっと目を走らせてがっかりしたように肩を落としたのは石崎の同室である 井沢だった。
「隣とこっち、何回行ったり来たりすりゃ気が済むんだ。それよりよ、どっかからオヤツ 調達してきてくれよ。日本から持って来た分、もう全部食っちまったんだ」
「石崎!」
 そののんびりした言葉に、井沢はキッとこちらを睨みつけた。
「おまえは心配じゃないのか。翼は練習の後から全然部屋に戻ってないんだぞ」
「まだ言ってんのかよ。自由時間なんだから翼がどこに行ってたってほっといてやれよ。 どうせ岬と遊んでんだろ」
 この1号室の隣は来生と翼の部屋だった。相変わらずアイウエオ順で決まった部屋割だ が、この2部屋に関しては南葛組がうまく占めている。内輪の事情を隠すにはうってつけ とも言えた。
「おまえら、過保護!」
「おまえが気にしさなすぎなんだ、何かあってからじゃ遅いんだぞ」
 古い話を持ち出すなら、小学校が同じだった石崎や岬よりも、そのライバル校だった修 哲のメンバーのほうが翼に甘い。石崎は肩をすくめた。
「何があるって言うんだか…」
「そう言えば岬は――」
 井沢がふと思いついたように口にした。
「さっきから三杉を探してウロウロしてるって聞いたぞ。翼と一緒じゃないんじゃ…」
「あ〜、それこそほっとけって。当てられるだけだから。岬ならさっきもこの部屋覗いて ったぜ。ここに来てねえかって」
 来るわけねえって…と口の中でぶつぶつ言っている石崎を井沢は不思議そうに見た。
「岬にはあれがいい気分転換だろうさ。それにリハビリにもいいしな」
「リハビリって、何の?」
 今度こそポカンとした井沢を見上げて石崎はニヤリとした。
「いーからいーから。それより井沢、早くお菓子」
「自分で探して来いっ!」
 翼は甘やかすが石崎は問題外。元修哲組はその点はきっぱりしていた。