コイスルオトメ
歌:いきものがかり【歌詞】    





「待てよ、おい!」
 国立競技場のスタンド下。ゲートの並ぶ湾曲した通路を、日向はものすごい勢いで 歩いて行こうとする。
「人の告白は最後まで聞けよ」
「黙れ」
 足は止めず、ちらっと背後を睨んでさらに足を速める。
 松山はその顔を見てニッと笑うと、駆け足でその背後に追いついた。
「だから待てって」
「最後まで聞く必要なんかねえ」
「そうかなあ」
 松山は真横に並ぶと、日向の顔を覗き込んだ。
「そいつはつまり、おまえも俺が好きだったってことか?」
「……」
 ぱたっと急停止した日向は、いきなり隣の松山の襟首を締め上げようとした。
「殺す!」
「へへ」
 松山は嬉しそうに笑う。日向の顔が真っ赤になっていたのだ。
「よかった。これで俺たち両思いってわけだ」
「おまえは…!!」
 さらに怒鳴ろうとした日向だったが、通路に人影がいくつか見えたのに気づいて急 いで声を落とし手を緩めた。
「馬鹿もたいがいにしろ。俺はおまえなんか…」
「手、つないでいいか?」
 言うのと同時に松山は日向の手をつかまえて走り出した。
「離せ、こら、松山っ!」
「へへへ」
 強引に手を引いて松山はスロープを駆け下り、青山門に向かう。
「おまえ、手に汗かいてる。緊張したのは俺だぜぇ」
 どこにも緊張した様子のないまま、歩道まで出てきてから松山は笑顔を見せた。少 し息を切らせてはいるが、彼も日向もこれくらいでへばる体力はしていない。
 日向はその言葉を聞いてまた顔を赤くし、勢いよく手を振り払った。
「…くそっ」
 木立ちの向こうにスタジアムの照明塔の灯りが高くそびえているのが透けて見え る。その方向を睨んで、日向は大きく息を吐き出した。
「なんでおまえにこんなに振り回されなくちゃならねえんだ。俺は…」
「惚れた弱み」
「てめえ!」
 またつかみかかろうとした日向の腕をかいくぐって、松山はひしっと反対の腕にし がみつく。肩に頭をぐりぐりとこすりつけられて、日向は唖然とした。
「へへ、日向の匂いだ」
「馬鹿野郎、離せって!」
 さすがの粘りで腕は離さず、松山は日向を至近距離からじっと見上げた。
「おまえは意地は張るけど嘘はつかないよな?」
「う…」
 答えるに答えられなくなって日向は目をぱちぱちさせた。
「ち、ちきしょう」
「諦めろ。俺たち、運命の相手に巡り会っちまったんだ」
「…」
「日向」
 その体勢のまま、松山はぐっと顔を寄せた。
「キス、しよ」
「だっ…!!」
 一瞬絶句し、日向が固まった。見つめ合った緊張感が数秒間。
 ぴくっと日向が動いたかと思ったその瞬間――。
「こ、殺すっっ!」
「もう、意気地がねえなあ」
 渾身の力で松山を引き剥がした日向が駆け出した。
「恋するオトメゴコロを判れよー」
「誰がオトメだっ!」
 もちろん、そのまま松山も後を追う。
「俺さ、何回殺されてもおまえを離さないからな」
「運命のバカヤロー!」
 おそらく、地平線の果てまで、オトメゴコロは追ってくるに違いなかった。




《 END 》











青春ですねー。松小次の小説は初書きで す。歌詞はタイトル下のリンクから読め ますので興味のある方はどうぞ。