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「川崎さんの遺体発見場所とは少し離れた、奥の壁際です。セットの瓦礫に隠れて発見が遅
れたんでしょう」
戻って来た蒔田警部補はポラロイド写真を取り出して示したが、その場の誰も見覚えのな
い人物だと証言した。
「なんてこった。連続殺人だなんて…」
森永が青くなっている。
「検死の結果を待たないと確かではありませんが、外傷の様子から見て、こちらは転落死の
可能性がありますね。たとえばああいう高さから」
蒔田が指差したのは、スタジオの上部、調整室の窓が見える設備通路だった。壁に沿って
アルミ製の足場がぐるりと取り巻いているのだが、高さで言えば約10メートルというとこ
ろだろうか。これはもちろん隣のGスタジオでもほぼ同じ構造になっている。
「他殺か事故か、ちょっと厄介なところですね」
そんな言葉を残して蒔田が去った後、出演者一同は不安な空気の中、また待ちの時間に放
り出された。
既に4時。夕方のニュース番組まであと1時間。
相馬はそちらのスタジオに戻り、草津アナも報道部から呼び出しが入って別棟に向かう。
「私、明日京都で撮影なのよ。いつまでこうしてなきゃいけないの」
桜坂の怒りにも疲れが見えてきていた。
今日はこの収録だけで終わりだったのは、あと横井、森永、おおみね咲である。どまんな
かは同じプロダクションの仲間のライブがあって、出演はないものの会場へは出向くことに
なっているという。
「共犯の疑い、ってねえ。ほんとにいると決まったわけでもないのになあ」
「相馬くんはなんて言ってたの? ニュースで流れるんでしょう、この事件も」
「ああ、草津さんが呼ばれて行ったのはそのことでだったみたいだよ。この段階では発表そ
のものが微妙なとこだしね」
桜坂と横井の会話はぼそぼそと続く。
「でも、お父さんのこと、心配だよね」
こちらで反町がそう声をかけると、咲の顔が曇った。
「お父さんが犯人のわけないです。だから早く出て来て、ちゃんと調べてもらえば、違うっ
てわかるはずなんです…」
「そうだね。だといいね」
反町は一応そう言ってなぐさめたのだが、やはりニュースがどう伝えられるかは気にな
る。
セットの前のモニターにも、壁際のモニターにも、それぞれ人が集まり始めた。咲は少し
ためらっていたが、同じくそーっとモニターに近づく。
「おっと!」
反町の携帯が鳴った。
「いいとこなのに、なんだよぉ」
そそそと人垣から外れて声を低くする。
『俺だ』
「井沢?」
聞こえてきたのはちょっと不機嫌な井沢の声だった。
『揃いも揃って人使いの荒いやつらだよ、まったく』
「代わろうか?」
ちらっと若島津を見やるが、井沢は手短に済ませたいようだった。
『いや、伝えておいてくれ。結果はロスの事務所に転送しておいたってな』
「結果って?」
『それでわかる』
あくまで第三者扱いである。この冷たいとこがいいんだけど…とこっそり考えながら反町
は夕方のニュースショー『YOU GATTA NEWS』のタイトルコールが始まったの
を横目で確認した。
「あのさ、今そこにテレビあったらニュースにしてみなよ。俺たち、その現場に足止め食っ
てんの。容疑者リストに載ってんだぜ」
得意がるようなことだろうか。しかも事実が脚色されている。
『出先なんでな。観られるかどうか難しいな』
それだけ言って通話は切れた。反町は口を尖らせる。
「ちぇっ、つれないのー」
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