「これが落ち着いていられるか! 京子さんはどこだ!」
「え? 小泉さん…?」
ここで初めて、彼が純白のタキシード姿なのに気づいた少年たち
である。
「横取りしようとはどういう了見だ、日向っ !! 」
日向はすっかり点目になっている。こわごわこの騒ぎを見守って
いた全日本ジュニアユースの面々は、話が妙な雲行きになりかけ
たのを見て、わさわさと身を乗り出してきた。
「…まさかと思いますが、日向さんが、小泉さんと駆け落ちでも…」
妙にタイミングを狂わせる抑揚で、若島津が口を出しかけたとた
ん、日向が我に返ってがなり始めた。
「て、て、てめえ、何てこと言い出すんだ !! お、俺が…、何で小泉
さんとーっ!」
日向が視線を外したすきに一つ深呼吸した山本は、曲がったネク
タイをもったいぶって直し、改めて日向に向き直る。
「教会に行ってみたらもぬけの空、ホテルにあわてて電話を入れた
ら京子さんは朝早くからいない。…挙句、聞けば日向、おまえから
の電話があったと言うから…」
「ひょっとして…、今日が結婚式だったんですか… !? 」
横から反町が口をはさむ。
「そうとも! もう2時間も前にな!」
「試合そっちのけで何騒いでるの?」
その騒ぎの元凶が現われた。
「あら、来たの? 時間を遅らせるって連絡したのに…」
「京子さんっ !! 何やってるんです、こんな所で… !? 」
「日向くんは関係ないわよ、残念だけど」
花嫁はにっこり微笑む。日向の肩から一気に力が抜けた。
「…関係あってたまるか」
「やっぱりそうだったんだ…」
反町がつぶやいた。日向が聞きとがめる。
「何だ、そのやっぱりってのは?」
「いえ、小泉先生が近々結婚なさるんじゃないかって噂がしきりだっ
たもんですから…」
「あら、どうして?」
まだ興奮さめやらぬ山本をせきたてて席の一つに掛けさせなが
ら、小泉女史は面白そうに尋ねる。
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