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「え〜、俺もかぁ?」
「ワシも絶対、場違いタイ。佐野や新田や若島津に任せておけばよ
かと」
「なんで俺がそこに入る!」
ぶつくさ言う高杉と次藤に、若島津がずいっと詰め寄る。ちなみに
全日本ジュニアユースチームの中では、この3人が長身ベスト3な
のだ。しかし次藤はひるまなかった。
「…そ、そいば、背の高さだけ言うたらそうかもしれん。ばってん、お
まえ十分おなごに見えるばい」
言ってはならない一言を口にしてしまった次藤の運命やいかに
…、という局面でタケシが捨て身で飛び出した。
「じ・と・お〜、きさまぁ…」
「や、やめてください、ボクが、ボクがやりますからっ !! 」
一同がはた、とその仲裁者を見た。12才。当然童顔…。目の大き
さにかけては他に例を見ない。…とは言え。
まず当の若島津が噴き出したのを合図に、次藤をはじめ全員が一
斉に爆笑に包まれた。ああ、かわいそうなタケシくん…。
ここ、先程のC社グラウンドからそう遠くない教会の一室で彼らが
もめにもめている問題とは、花嫁の付添い人の衣装を誰が着るか
…ということだったのだ。ちなみに、当地の習慣では、この役は未
婚の少女が務めることになっている。
役目をおおせつかるのは4名…。最後の手段、クジ引きに踏み切
るか否か、というさなかのやりとりだった。
「これは僕の個人的な提案なんだが…」
しばらく沈思黙考していた三杉が、笑いが収まるのを待って静か
に口をはさんだ。
「ここはやっぱり、花嫁の意思を最優先すべきだと思うんだよ」
全員が真顔になり、しばしの沈黙の後、視線が一ヵ所に集まり始
めた。ぼーっと考え込んでいた日向は、一瞬遅れてその居心地の
悪さに気づいたらしい。
「な、何だってんだよ! 何だ、その目は! ええ !? 」
「…確かに三杉の言う通りです。この際、似合う、似合わないより、
彼女の趣味を尊重しましょう…」
背後から静かに肩に手を置いたのは、若島津である。よくよく考
えてみれば、多くは声変わりもすませた少年たちにこういう役を押し
つけようとすること自体、尋常の趣味の持ち主とは言えないのであ
って、その要望にいちいち真面目に取り組むこともないのだ。しかし
て、結論…。被害者は一人で十分である。松山も口を出してきた。
「そう言えば、この結婚の媒酌人は北詰さんだろ? なら、いよいよ
身内で固めるのがスジってもんだ。なあ、日向」
「俺は身内じゃねえっ !! 」
「東邦はみな兄弟、って言わなかったっけか?」
「ありゃあ、中・高・大の兄弟優勝…だよぉ」
その理屈で行けば第二候補にもされかねない、とビクビクしなが
ら、反町が立花のどちらかに答えた。もう一人の立花が念を押す。
「で、北詰さんって、あの人の何だ?」
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