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「いやー、上出来上出来!」
おどけた口調で石崎が言った。最後にロッカールームに入ってきた森崎の背を手加減もな
くバシバシとどやしつける。
「前半を無得点に抑える、ってのは予定通りにいったな」
「こっちも無得点だけどな」
ほっとするように言った井沢に水を差したのは滝である。1年生の新田も不機嫌な顔でう
なづいた。
「ぜーんぜんチャンスが来ないんすからぁ。若島津さん、なんか調子が悪そうなのに、もっ
たいないったら」
「そこへ行くとうちのキーパーは絶好調だな。なっ、森崎」
皆の話の輪には加わらずに座って顔を拭いていた森崎は、呼ばれてはっと振り返る。石崎
は別に返事を期待したわけではないらしく、話はもう次に移っていた。
「……大丈夫?」
「えっ?」
顔を上げて目が合ったのは岬だった。真剣な表情がまっすぐ自分をとらえていて、思わず
うろたえる。
「あ…。お、俺?」
もちろん大丈夫、と応じようとした途端の岬の言葉が彼を脱力させた。
「小次郎がムキになってるけど、またなんかやったの?」
2年前の正月のあの事件の時に居合わせなかった岬は、どうやらあとから情報が捻じ曲が
ってインプットされたらしい。さらに始末の悪いことに、インプットした南葛のチームメイ
トたちも大真面目にそれを事実だと信じているのだ。
「あ、あのねえ…」
「さっき引きあげて来る時も、若島津と話そうとしただけで小次郎すごい勢いで邪魔してた
ろ? 何かあったのかって思って…」
森崎は肩を落として再びタオルに顔をうずめた。
試合前もさっきも、話しかけようとしたのは自分ではなく若島津なのだ。俺は何もやって
ない。日向のヒステリックな闘志も、若島津の態度が変なのも、俺とは全然関係ないから!
…と森崎は叫びたかった。
ただしそれは彼の願望であって、実際は大いに関係があったんだよね。
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