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まぶしい光が全身を包んだかと思った途端、森崎の意識がすうっと遠のい
た。光の束が奔流となって彼を押し流し、上も下もわからなくなった次の瞬
間、森崎は何もない中空にいる自分に気がついた。
「…な、何!?」
足の下に感覚がない。自分を包む空気にそよとも動きが感じられない。何よ
り、今の今まで自分がいた世界がそっくり消えてしまっているのだ。
「…ヘフナー!」
声を出したつもりが、声にならない。
「……!?」
森崎は周囲の空気が突然動き出したことに気づいた。風ではない。もっと感
覚を包むような、静かな動きだった。
「誰、君は…?」
少し離れた所に人が座り込んでいた。森崎が一歩を踏み出すと、相手が顔を
上げた。目にまだ涙をいっぱい溜め、しゃくり上げながら森崎をじっと見る。
金色の髪に青い瞳…。年のころは10才くらいの小柄な少年だった。
「そこで何をしているんだ!?」
それは恐怖感ではなかった。しかし森崎は背に何か電気でも通っていくよう
な異様な感覚にとらわれた。警戒…? おそらく若島津ならもっと具体的に危
険を感知できるだろうに、と心の中で考える。
「僕…出られないんだ、ここから」
少年は片方の腕でぐいっと目をこすって口を真一文字に結んだ。が、見る見
る涙があふれる。
「ずっと出られなくて、こわいんだ」
空間は動かなかった。森崎と少年を取り囲んで、握りしめるように、ただじ
っと沈黙していた。
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