「何だろう…?」
顔を上げて周囲の様子を窺う。
「どうかしたの、モリサキ」
「…ちょっと待って」
森崎は立ち上がった。彼らを囲い込んだまま一切の変化を見せなかった白い
スクリーンに何か動きが感じられる。
波。…そう、波立つ、という感じがぴったりだった。何かが変化しつつあ
る。その変化の兆しが、彼には見えないこの闇のどこかで確かに鼓動している
のだ。
フリッツはそんな森崎の真剣な顔に不安の表情を向ける。森崎はじっと目を
こらし、そのままつぶやいた。
「…行ってみる」
「どうしたの! ねえ、どうしたの!?」
「動いてるんだ。出口かもしれない」
「出口? ここから出られるの!?」
フリッツも弾かれたように立ち上がった。両手を握りしめ、森崎の背に呼び
かける。森崎は一歩一歩感触を確かめるようにそろそろと前に進んで行った。
「動いてるって、何が?」
「引っぱられるみたいな、それとも…?」
足を止めてゆっくりと周囲に首を巡らす。
磁場――とでも言うしかない力の流れを森崎は直感的に感じていた。ゴール
に一直線に向かってくる時のストライカー。その攻撃の焦点に集中する圧倒的
な力。その前に立ち塞がるキーパーにとって、それは無条件に「危険」を意味
する。この感じはそれと異様に似ていた。そしてその力は今はっきりと彼に照
準を合わせて、まっすぐ押し寄せて来るのだ。森崎はフリッツにはそこまで説
明はせずにまた一歩を踏み出した。
「やだ、モリサキ、ここにいて! こわいよ!」
背後でフリッツの悲鳴のような声が響いた。
――こわい? こわいって、何が?
振り返ろうとしたその瞬間だった。頭上から大きな黒い影が覆いかぶさる。
あっと思う間もなく森崎はまるで押し潰されるように暗黒の嵐に包まれた。
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