3 谷
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「三杉くんってば…!」
素通しになったキャビンには、ローター音が直接響く。
「…ねえ、死んだふりなんてやめて、目を開けてったら!」
「――少し、静かに」
一言言うたびに、息が切れる。
「してくれないかな、岬くん。おちおち死んでもいられないじゃないか…」
ようやく目を開いた三杉は、床の上からぼんやりと天井を見た。それからゆっくりと視線を
横に下ろしていくと、ドアのないそこには、多摩山系ののどかな緑の山々がはるかに広がって
いる。
「…息は、してる?」
反対側からささやくように声がかかる。さっきまでの必死な大声とは対照的に。
「たぶん」
三杉は一度目を閉じて、自ら確認するように息を静かに吐いた。
ガラスの破片が散乱する前部シートには触らないように注意しながら、岬は倒れ伏している
三杉を覗き込んでいたのだった。そのしっかりした返答に、少しだけほっとしたように肩の力
を抜く。
「……飛んでる、みたいだね」
再び目を開いて、三杉はヘリの前方を見た。岬もそちらに目をやる。
「と言うよりも落ちてるんだよ。ゆっくりとね」
不安定ながらもローターの回転はある程度の浮力を保証していた。テールローターを損傷し
た機体はごくゆっくりと自転をしつつ高度を下げ続けている。三杉はエンジンの音に耳を澄ま
せた。
「エンジンの一基が止まりかけている…」
「えっ」
不吉な言葉に、岬はぎくりとパネルを振り返った。
「スロットルは、どうなってる? MAXに、入れてみて…」
岬は無言で指示通りにした。計器の表示はどのみち彼にはチンプンカンプンであったが、ど
のメーターもいい状態を示しているようには思えなかった。
「あまり、もちそうには、ないね」
「……」
今度は二人で耳を澄ませる。エンジン音は復活した様子はなかった。
「ボクね、君とだけは心中したくなかったな」
「ああ、同感だね」
三杉は苦しそうに体の向きを変えると、岬を見上げて微笑んでみせた。
「どちらかが生き残れば心中にはならないよ」
「あと、二人揃って助かる、ってのもあるんだけどね」
さて、選択肢はどう転ぶのか。
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