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「やあ、島野くん」
武蔵と東邦。月例の定例試合で友好を深めている彼らは、互いのプライバシーについて
もある程度の情報を持っている。そうでなくても、反町一樹のお守り役を引き受けるよう
な人間は限られていると言っていい。
「突然すまない。ちょっと頼みたいことがあったものだから――」
『何だ?』
遠くインドネシアからの、それも意外な相手からの国際電話にも島野は動じる様子はな
かった。
「実は一樹の忘れ物を探してほしくてね。君たちの部屋には一樹のデータCDやDVDが
たくさんあると思うんだが、その中から1枚、見つけ出してくれないかな。『ダンジョン
ズ&フィドラー』かそれに類するタイトルなんだが」
『わかった。探してみるよ』
寮の電話だから島野はいったん切る。約束の30分後に掛け直すと、意外にも島野は余
裕を持って待っていたようだった。
『あったよ。たぶんこれだと思う。【ダンジョンズ&フィドラー・バックアップ】』
「ああ、ありがとう」
三杉の顔がほっと緩む。
「それで、できればそれをこちらにデータ送信してもらえると嬉しいんだが――」
『大丈夫、手順は知ってる。門前の小僧ってやつだ』
頼もしいお言葉だった。が、島野はすぐに笑い出す。
『嘘だよ。あいつのパソコンの前に送信とかマニュアルが貼ってあるんだ。俺にも読める
言葉でな。あいつは実家とか出先なんかからしょっちゅう俺に同じことをさせてるんだ』
なるほど、お守りはそんな仕事まで含まれていたのだ。
『それより、あいつに何かあったのか。どうして自分で言って来ない』
「ああ、それが――」
できることなら触れずにおきたいところだったが、島野にこう言われては避けられない
のは確かだった。差しさわりのない範囲で反町が消えたことだけを説明する。
島野は黙り込んだ。
『なるほど。こんがらがった奴がこんがらがった事件を起こしちまったってわけか』
「――こんがらがった?」
『あの性格』
「ああ、そっちか」
千里眼めいた島野の言葉にぎくりとしかけた三杉だった。
『他に何かあるってのか』
「はは、君のほうが彼との付き合いは長いんだったね。なら教えてもらいたいんだが」
『あいつの生まれについて…? 外国生まれって話か』
これは意外な質問だったのか、島野は少し考え込んだようだった。
『あいつは3才までクウェートにいて、その後スペインに移った。東邦の小学部に編入し
てきたのが4年生の時だ』
「すげえよな、あちこち転々…」
話に聞き耳を立てながらこっちで松山がつぶやく。だが、そこまでは彼らもあらましを
知っている部分だ。
「じゃ、一樹のお父さんはその頃何をしていたのか、聞いてるかい? そしてクウェート
から帰国した事情とか」
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