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「大体、なんだ反町、その高校生にあるまじき格好は」
降りかかってくる雨を避けるように、山本は閉まったシャッターに身を寄せた。駅前に
近い表通りから1本入った狭い飲み屋街は、この雨の朝、人通りはほとんどない。
その山本とそっぽを向くように背中同士を合わせながら、反町は向かいの雑居ビルにじ
っと目を向けていた。
「先生こそ教育者にあるまじき格好じゃありません? それって…」
大きなベルベットのキャップの下からスプレーで染めた前髪を覗かせた反町は、肩越し
にちらりと視線を投げる。東邦きっての遊び人の名を誇っている彼としては、自分のほう
が意表を突かれたと言いたいわけで。
「これは……変装だ」
普段バックに流している髪を前に下ろしただけで人間これほど印象が変わるものだろう
か。細見のシルエットのエスニック調ジャケットからサングラスまで全身黒で決めて、レ
ザーのリストバンドが過激なワンポイントになっている。もっとも、実直を絵に描いたよ
うな、と言われがちな山本の正体がそう生易しいものでないことくらいサッカー部のメン
バーなら承知の上だ。
「最高にクレイジーですよ。惚れちゃうな」
「黙ってろ」
スタジオ・オメガ。表向き広告代理店らしきことをやっているが、実態はかなりうさん
くさいイベント屋であった。H市街に下りて直接オフィスに乗り込んだ二人は、一人電話
番をしていたアルバイトの少女にすっかりギョーカイさんだと信じ込まれて、頼みもしな
いのに現場に通してもらえることになったのだ。「変装」が思った以上の効果を発揮した
ことに関して、彼らはその功績を互いに押しつけ合っているのだった。
「乗り込むのはいいが、バレたらどうする」
「このカッコじゃ今さらコソコソしても無駄ですよ、せんせ」
「――気になるな、あのバイク」
反町の言葉は完全無視して、山本はビルの非常階段をくぐり、脇に停めてある派手な改
造バイクに目を止めた。善良な一般市民のものとはとても思えない。
「どっちのゾクのものでしょうね」
「…反町」
つくづく隠し事のできない相手だということを悟らずにはいられなかった。
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