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「……こら」
ドアを開けた手を一度止めてから井沢が部屋にゆっくりと入ってきたので反町は嬉しそうに顔を上げる。
「おっかえり〜!」
そう、ここは井沢の法律事務所。深夜をまわって誰もいないはずの留守宅に入り込んでいた侵入者に井沢は不機
嫌さも露わに近づいた。
「どういうつもりだ、反町」
「違う違う。ここで言うべき言葉はそれじゃないでしょ?」
自分の前に立った井沢に向かって伸び上がり、反町は顔を近づけた。
「愛してるよ、いざわ」
「ほう…、ケンカを売りたいようだな」
キス寸前まで迫った反町を押し返し、嫌そうにつまんで引き剥がす。
井沢がぐいっとつかんだのは反町の右手だった。
「なんだ、これは」
「へへへー」
その手に握られていたのは小型のカメラ。
「感動の再会シーンを記念に撮っとこうと思ってさ」
「俺の仕事の邪魔をするなと言ったはずだが?」
「まさかぁ」
威圧感たっぷりに睨み下ろされて、反町はすねたようにそっぽを向いた。
「おまえに会いたくてはるばる来たのに…ヒドイよ」
「そうか」
両肩に手を置いたかと思うとぎゅっとその体を抱き寄せる。
「――なら、そのケンカ、買うしかなさそうだな」
「え? ちょちょっと、井沢」
珍しく井沢のほうから迫られて反町はまごつく。
「いや…嬉しいんだけど。その、ちょっと…イタイ、ってば!」
「カメラとデータを置いていく気になるまで愛情たっぷりに抱き締めてやる」
「じゅうぶん! もう十分です〜!」
めきめきと音が聞こえてきそうな熱い抱擁に埋もれ、声にならない悲鳴が続くのだった。
END
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